vast.ai で RTX 5090 を借りて ローカル LLM を動かす|2026-08 版
第 9 章

SSH でインスタンスに入る

proxy と direct の違い、ポートフォワード、VS Code から開く

この章で分かること

接続に必要な値は 3 つだけ

SSH(= 遠くのコンピューターに、通信を暗号化したまま安全にログインする仕組み)で入るために覚えることは 3 つです。ユーザー名・ホスト・ポート番号。vast.ai ではこのうちユーザー名が常に root に固定されているので、実際に調べるのは残り 2 つだけです。

先に釘を刺しておきます。SSH の既定のポート番号は 22 ですが、vast.ai のインスタンスに 22 番で繋ぐことはありません。1 台のマシンの公開 IP アドレスを複数の借り手が共有していて、コンテナ内部の 22 番はホスト側の別の番号に割り当て直されるからです(この仕組みは第 10 章)。だから接続コマンドには必ず -p でポート番号を渡します。ここを知らずに ssh root@… だけを打って「繋がらない」と言うのが、最初の 5 分で起きる事故です。

3 つの値を取る方法は 2 つあります。コンソールのインスタンス一覧に並ぶインスタンスカードの SSH ボタンを押すと、そのまま貼れる接続コマンド文字列が出ます。ターミナルからなら CLI です。

vastai ssh-url <INSTANCE_ID>

<INSTANCE_ID> には対象インスタンスの ID を入れます。分からなければ vastai show instances で一覧が出ます(インスタンス作成時に返ってきた JSON の new_contract の値と同じものです。id という名前ではないので探すときに注意してください)。返ってくるのは次のどちらかの形です。

ssh://root@ssh5.vast.ai:33426          # proxy 接続の場合
ssh://root@142.214.185.187:20544       # direct 接続の場合

ssh:// で始まる URL 形式なので、手で打つコマンドの形に読み替える必要があります。公式のサンプルもこの読み替えを前提に書かれています。

vastai ssh-url の出力(ssh:// は打たない) root ユーザー名 ssh5.vast.ai 接続先ホスト 33426 ポート番号 root は固定 ホスト名 ポートは -p の後ろへ ssh -p 33426 先頭に付ける root@ssh5.vast.ai ユーザーとホスト -L 8080:localhost:8080 任意(次節) 既定の 22 番では繋がらない
図 9-1 並びが変わるのはポート番号だけです。URL では末尾に付いていた数字が、コマンドでは -p の直後に移動します。ここを取り違えると「ホスト名が長すぎる」といった無関係なエラーになります。

スクリプトから使うなら JSON で取るのが確実です。--raw を付けると機械可読な JSON が返ります。

vastai show instance <INSTANCE_ID> --raw

この JSON のうち、接続に関係するフィールドは次のものです。

proxy 接続と direct 接続

打つコマンドは同じ 1 行なのに、そこから先の経路は 2 種類あります。proxy 接続(= vast.ai の中継サーバを経由して入る方式。既定)と direct 接続(= インスタンスが載っているホストへ直接入る方式)です。SSH 起動モードを選ぶと、vast のシステムはホストのルータに開いているポート(オープンポート)があるマシンなら両方をセットアップしようとします。proxy はバックアップとして常に用意され、direct が張れたときはそちらが使えます。

proxy 接続(既定・どのマシンでも動く) 手元の Mac / PC vast の proxy サーバ ssh5.vast.ai インスタンス SSH 中継して転送 direct 接続(--direct で要求・開いたポートが必要) 手元の Mac / PC インスタンス ホストの IP に直結 転送が速い・より安定
図 9-2 違いは「中継が 1 台入るか入らないか」だけです。ターミナルでコマンドを打つ用途では体感差はほとんどありませんが、ファイルを大量に流すとここが効いてきます。
項目proxy 接続(既定)direct 接続
使えるマシンすべてのマシンルータに開いているポートを持つマシンのみ
経路vast の proxy サーバを経由インスタンスのホストへ直結
ホストの見え方ssh5.vast.ai のような名前142.214.185.187 のような IP
データ転送遅い速い・より信頼できる
公式の位置づけバックアップとして常に用意されるpreferred method(推奨)

正直に書いておきます。公式ドキュメントは、この速度差を数値で書いていません。出てくる表現は「slower for data transfer」「faster and more reliable」「lower latency than proxy SSH」という定性的なものだけです。「何ミリ秒速い」と書いてある記事を見かけても、それは公式の値ではありません。

direct を掴むには、借りる前の条件が 1 つあります。ホストのルータに開いているポートが必要で、offer 検索のフィールド direct_port_count(= ホストのルータで開いているポート数)で絞れます。

vastai search offers 'gpu_name=RTX_5090 num_gpus=1 verified=true direct_port_count>=1 rentable=true' -o 'dlperf_usd-'

クエリ全体をシングルクォートで囲むのは公式の指示です(> がシェルのリダイレクト記号と衝突するため)。gpu_name の値はスペースをアンダースコアに置き換えるので RTX_5090 と書きます。RTX 5090 や 'RTX 5090' では通りません。末尾の -o 'dlperf_usd-' は「1 ドルあたりの DL 性能の降順」、つまりコスパ順の並べ替えです。

RTX 5090 に関しては、この条件で候補が枯れる心配はまずありません。2026-08-24 時点で 1 枚構成の RTX 5090 の offer 64 件を実測したところ、direct_port_count の中央値は 98 でした。借りるときは --ssh(SSH 起動モード)に --direct(jupyter と ssh の両方でより速い直接接続を使う)を添えます。

vastai create instance <OFFER_ID> \
  --image <IMAGE> \
  --disk 40 \
  --ssh --direct

<OFFER_ID> は search offers が返した offer の id、<IMAGE> は使う Docker イメージ名(第 7 章で選んだもの)です。ここで大事なのは、起動モードは作成時に決まり、後から変えられないことです。「あとで direct に切り替える」はできません。作り直しになります。

お金の目安を先に置きます。この章で新しく始まる種類の課金はありません(インスタンスはすでに動いているので、GPU の時間課金とディスク課金は第 8 章から続いています)。ただし接続を試している間も GPU の時間課金は動き続け、ファイル転送には転送量ぶんの帯域課金が乗ります。2026-08-24 時点の 1×RTX 5090 は中央値 0.4037 USD/時。接続の練習に 15 分使うなら約 0.10 USD(1 USD = 150 円として約 15 円)です。

初めて入る

順序の確認を 1 つだけ。SSH の公開鍵はインスタンスを作る前にアカウントへ登録しておく必要があります(第 8 章でやった作業です)。SSH の鍵は 2 つで 1 組です。公開鍵(= 相手のサーバに預ける側。人に見せても安全。~/.ssh/id_ed25519.pub)と秘密鍵(= 手元にだけ置く側。誰にも渡さない。~/.ssh/id_ed25519)で、vast.ai に登録するのは公開鍵だけです。公式は「it is applied at container creation time」(コンテナ作成の時点で適用される)と書いており、後から登録した鍵は既存のインスタンスには入りません。忘れて作ってしまった場合の救済手段はこの章の最後にあります。

やってみる 9-1|1 行で入って GPU が見えることを確認する

すでに動いているインスタンスに入り、GPU が割り当たっていることを確かめます。所要 3 分、2026-08-24 時点の中央値 0.4037 USD/時 なら約 0.02 USD です。

  1. 接続先を取る。<INSTANCE_ID> は自分のインスタンスの ID に置き換える。
  2. 出力の ssh:// を外し、ポート番号を -p の後ろに移して打つ(図 9-1)。
  3. 初回だけ fingerprint(= 接続先サーバの鍵を短い文字列に要約したもの)の確認を聞かれるので yes と打つ。
  4. 入れたら GPU の一覧を出す。
vastai ssh-url <INSTANCE_ID>
# → ssh://root@142.214.185.187:20544

ssh -p 20544 root@142.214.185.187

初回はこう聞かれます。これは異常ではなく、「この相手は初対面だが信用するか」という確認です。

The authenticity of host '[142.214.185.187]:20544 ([142.214.185.187]:20544)' can't be established.
ED25519 key fingerprint is SHA256:WTUphznpN0zikMp+L5EtZpiCH6EeZ2PA/7+DSXDRjT0.
This key is not known by any other names.
Are you sure you want to continue connecting (yes/no/[fingerprint])? yes

プロンプトが出たら nvidia-smi(= NVIDIA ドライバに付属する、GPU の状態を表示するコマンド)を打ちます。GPU 名(RTX 5090)と VRAM の量が表で出れば、GPU が使える状態です。公式の起動確認コマンドの例(--onstart-cmd "echo hello && nvidia-smi")にも同じものが使われています。

nvidia-smi

手元が Windows の場合

コマンドは Mac と同一です。新しめの Windows は PowerShell で ssh と ssh-keygen がそのまま動き、公式も「可能な限り CLI を使え」と推奨しています。違いは鍵の置き場所で、C:\Users\<YourUsername>\.ssh\ になります。公開鍵の中身を見るには Get-Content $env:USERPROFILE\.ssh\id_ed25519.pub です。WSL(Windows Subsystem for Linux)を使う場合は Mac / Linux とまったく同じ手順でよい、と FAQ に明記されています。

GUI のクライアントを使いたい場合は PuTTY か MobaXterm ですが、どちらも PuTTY 形式の .ppk 秘密鍵を使う点が詰まりどころです。OpenSSH 形式の鍵をそのまま渡せません。PuTTY なら PuTTYgen で鍵を作り(緑のバーが満タンになるまでマウスを動かすよう求められます)、Session タブに IP アドレスとポート、Connection -> Data の Auto-login username に root、Connection -> SSH -> Auth -> Credentials で .ppk を選ぶ、という並びです。MobaXterm は Sessions -> New Session -> SSH で Remote Host / Specify Username(root)/ Port / Use private key の 4 項目を埋めるだけです。PuTTYgen で鍵を作るときは SSH RSA-2 形式で保存するよう公式 FAQ が注記しています。

GUI ツールの設定が面倒なら、逃げ道があります。Jupyter Terminal(= ブラウザの中で動くターミナル)です。Jupyter 起動モードで作ったインスタンスなら全台で使え、インスタンスカードの SSH ボタン(SSH connections インターフェース)からアクセスできます。公式も Windows 向けの逃げ道としてこれを挙げています。詳しくは第 10 章で扱います。

入った先は tmux になっている

入った直後に「画面の下に帯が出ている」「Ctrl+C を押したのにプロセスが残っている」と感じても、壊れてはいません。vast.ai は既定で tmux セッションの中に繋ぎます。tmux(= 1 つのターミナルの中に複数の画面を持ち、接続が切れても中の処理を生かしておく仕組み)です。公式が挙げる理由は「信頼性のため、フォアグラウンドプロセスの意図しない終了を防ぐため」。

これは初心者にとってありがたい既定値です。モデルのダウンロードや推論サーバの起動は数十分かかることがあり、その途中で Wi-Fi が切れたりノート PC の蓋を閉じたりすると、素の SSH なら処理も一緒に死にます。tmux の中なら残ります。最低限、次の 4 つを知っていれば困りません。

やりたいことキー操作
新しい bash ウィンドウを作るCtrl+b → c
ウィンドウを順に切り替えるCtrl+b → n
画面を縦に分割するCtrl+b → %
画面を横に分割するCtrl+b → "

「サーバを起動したまま別の作業をしたい」場面が必ず来ます。そのときは Ctrl+b → c で新しいウィンドウを開いてください。Ctrl+C でサーバを止める必要はありません。

tmux を無効化する方法もあります(インスタンス内で touch ~/.no_auto_tmux)が、公式が推奨していません(SSH は不安定になりうるため)。消すと、回線が切れた瞬間に走っていた処理が道連れで落ちます。触らないでおくのが正解です。

ポートを公開せずに手元のブラウザから使う

本章で一番実用的なのがここです。llama.cpp や vLLM、Open WebUI をインスタンスで動かすと、それらはポート(= 1 台のマシンの中でサービスを区別する番号)で待ち受けます。手元のブラウザからそれを開きたい。素朴な方法は「そのポートを外に公開する」ですが、公開した瞬間、共有の公開 IP 上の外部ポートとしてインターネットから到達できる状態になります(第 10 章)。認証を付け忘れれば、誰でも自分の GPU で推論できてしまいます。

公式はこれを避ける手段を明示しています。ssh -L によるローカルポートフォワードです。公式の言葉では「しばしば見落とされる SSH の機能」であり、「公開インターフェースにポートを開けることの安全な代替。すべてのデータは SSH 接続の中を運ばれる」。

ssh -p 20544 root@142.214.185.187 -L 8080:localhost:8080 -L 5000:localhost:5000
部分意味
-p 20544既定の 22 番ではなく 20544 番に繋ぐ(vast の SSH は必ず 22 番以外)
root@142.214.185.187ユーザーは root。direct 接続なのでホストの IP アドレス
-L 8080:localhost:8080手元の localhost:8080 へのアクセスを、インスタンス内の 8080 番に転送するトンネル
-L 5000:localhost:5000同じことを 5000 番でも。-L は必要な数だけ繰り返せる
手元の Mac / PC http://localhost:8080 ブラウザで開く -L 8080:localhost:8080 SSH トンネル(暗号化) インスタンス(vast.ai 側) 0.0.0.0:8080 で待つサーバ llama-server / vLLM など -p を書かない限り届かない 公開インターネット
図 9-3 手元の 8080 番は「自分の SSH 接続の中にしか存在しない入口」です。だから他人が同じ番号を叩いても届きません。破線の経路が開くのは、-p でポートを公開したときだけです。

繋いだあとは手元のブラウザで http://localhost:8080 を開けば、インスタンスの中で動いているサービスに届きます。サービス側が TLS を張っているなら https://localhost:8080 です。コンソールの SSH ボタンが出す既定のコマンド文字列にも、最初から -L 8080:localhost:8080 が入っています。

やってみる 9-2|トンネルが通っていることを 5 分で確かめる

本物の LLM サーバを立てる前に、トンネル自体が通っているかを最小の Web サーバで確認します。所要 5 分、2026-08-24 時点の中央値 0.4037 USD/時 なら約 0.03 USD。この確認をしておくと、第 12 章以降で「モデルは起動したのにブラウザで見えない」と悩む時間が消えます。

  1. -L を付けて入り直す。<PORT> と <HOST> は vastai ssh-url で出た値。
  2. インスタンスの中で、最小の Web サーバを 8080 番で立てる。
  3. 手元のブラウザで http://localhost:8080 を開く。
ssh -p <PORT> root@<HOST> -L 8080:localhost:8080
python -m http.server 8080

ブラウザにファイルのディレクトリ一覧が出れば成功です(公式がポートの確認手順として案内しているのと同じテストです)。確認できたらインスタンス側で Ctrl+C を押して止めます。ここで押さえておきたいのは、インスタンス側では 1 つもポートを公開していないことです。-p を書いていないので、この 8080 番は自分の SSH 接続の中だけに存在します。

VS Code から開く・ファイルを送る

SSH 鍵が設定済みなら、エディタから直接インスタンスのファイルを編集できます。公式の手順は 4 段です。

  1. 拡張機能 Remote - SSH をインストールする
  2. Open Remote Window ボタンをクリックする
  3. ウィンドウ上部に出る入力欄に ssh のアドレス情報を入力する
  4. VS Code がインスタンス側を構成し終わるのを待つ。あとはローカルのフォルダと同じように扱える

ここも正直に書きます。入力欄に入れる文字列の正確な形式は公式ドキュメントに書かれていません(本文はスクリーンショットだけで、.ssh/config の書式や ProxyJump の設定例もありません)。まずコンソールの SSH ボタンが出すコマンド文字列をそのまま貼るのが最短です。Cursor でも同じ Remote-SSH で繋がる、と公式の移行ガイドに書かれています。

ファイル 1 つ 2 つを送るだけなら、エディタを立ち上げるより scp(= SSH の通信路を使って、手元とリモートの間でファイルをコピーするコマンド)が速いです。ディレクトリを見ながら対話的に操作したいときは sftp -P <PORT> root@<HOST> もあります。公式は「scp = 素早い単発転送、sftp = ファイル管理・複数操作向け」と使い分けを説明しています。

やってみる 9-3|設定ファイルを手元から送って書き換える

ファイル転送の 1 往復を通します。所要 3 分、2026-08-24 時点の中央値 0.4037 USD/時 なら約 0.02 USD。これに転送量ぶんの帯域課金が乗ります(inet_down_cost / inet_up_cost として GB 単位。2026-08-24 時点の中央値は下り 0.0026 USD/GB・上り 0.0039 USD/GB なので、数 KB のテキストでは無視できる額です)。<PORT> と <HOST> は vastai ssh-url が返した値に置き換えます。

  1. 手元のターミナルで 1 行のテキストファイルを作り、インスタンスの /workspace/ へ送る。
  2. インスタンス側(SSH で入っているターミナル)で中身を確認し、1 行足す。
  3. 手元のターミナルに戻り、書き換わったファイルを取り戻して中身を見る。
echo "hello vast" > memo.txt
scp -P <PORT> ./memo.txt root@<HOST>:/workspace/

インスタンス側では次の 2 行です。>> は「上書きせずに末尾へ追記する」という意味です。

cat /workspace/memo.txt
echo "edited on the instance" >> /workspace/memo.txt

手元に戻して確認します。

scp -P <PORT> root@<HOST>:/workspace/memo.txt ./memo-back.txt
cat memo-back.txt

hello vast と edited on the instance の 2 行が出れば、手元とインスタンスの間の往復ができています。ディレクトリごと送るときは -r を付けます(scp -P <PORT> -r ./myfolder/ root@<HOST>:/workspace/)。

この scp に、公式が Note でわざわざ警告している罠があります。ポート指定は scp と sftp が大文字の -P、ssh だけが小文字の -p です。小文字で書くと別の意味のオプションとして解釈され、意図した接続になりません。最頻出の詰まりどころとして名指しされています。

速度についても公式の線引きがあります。proxy 接続経由の scp は遅いので、1 GB 未満の小さい転送に留めろ。大きい流入転送は direct SSH を使え。そしてモデルの重み(数 GB〜数十 GB)のような大物は、手元から送るのではなくインスタンスの中から wget や curl で直接落とすほうがはるかに速いことが多い、とも書かれています(第 11 章でやります)。CLI の vastai copy も使えますが、宛先に /root や / を指定してはいけません。インスタンスの ssh フォルダのパーミッションが壊れ、以後の copy 操作が失敗します。

入れないときの切り分け

症状は 3 つに分かれます。手元から出た接続がどこまで届いてから止まったかで症状が変わるので、当てずっぽうに再試行するより先に、どれなのかを見てください。ポート番号かインスタンスの状態が違えば返事そのものが来ませんし、そこを越えて相手の sshd(= 接続を受け付けるサーバ側のプログラム)まで届いていれば、返ってくるのは鍵に関するエラーです。

接続が通る道すじ 手元の Mac / PC 秘密鍵を持っている 経路(proxy / direct) 外部ポート → 22 番 インスタンスの sshd 公開鍵と照合 HOST:PORT 22 番へ中継 どこで切れたかで症状が変わる 無反応・タイムアウト ポート番号か状態が違う Permission denied 秘密鍵が違う・権限が緩い パスワードを聞かれる 公開鍵が届いていない 切り分かないときは vastai logs で起動ログを見る
図 9-4 切れる場所は 2 か所しかありません。経路(ポート番号かインスタンスの状態)か、右端の鍵の照合かです。パスワードを聞かれたときだけは、vast.ai の SSH にパスワード認証が存在しない以上 100% 鍵の問題だと断定できます。

パスワードを聞かれる

vast.ai のインスタンスは鍵認証のみで、パスワード認証はセキュリティ上の理由で無効化されています。つまり聞かれている時点で鍵が効いていません。公式が挙げる原因は 4 つ。鍵がアカウントに正しく追加されていない/公開鍵を全文コピーしていない/SSH クライアントの設定ミス/秘密鍵が ssh-agent(= 秘密鍵を覚えておいて ssh に渡す常駐プログラム)にロードされていない。

実際に一番多いのが 2 番目です。公開鍵は 1 行の長い文字列で、先頭の種類(ssh-rsa や ssh-ed25519)から末尾のコメントまで全部が 1 つの鍵です。真ん中の英数字だけをコピーしても通りません。公式が示している完全な形はこれです。

ssh-rsa AAAAB3NzaC1yc2EAAAADAQABAAZBAQDdxWwxwN5Lz7ubkMrxM5FCHhVz... bob@velocity

Permission denied (publickey)

公式の切り分け順はこの 4 段です。上から順に潰します。

  1. 公開鍵が Keys ページ に登録されているか確認する
  2. 正しい秘密鍵を使っているか確認する(複数の鍵を持っている場合の取り違えが多い)
  3. 秘密鍵のパーミッションを直す: chmod 600 ~/.ssh/id_ed25519
  4. 詳細ログを取る: ssh -vv -p <PORT> root@<HOST>

原因の候補として公式が列挙しているのは、間違った秘密鍵を使っている/秘密鍵のパーミッションが不正/公開鍵がインスタンスにもアカウントにも登録されていない/間違ったポートに繋いでいるの 4 つです。最後の 1 つは意外に多いので、vastai ssh-url を取り直して番号を突き合わせてください。

鍵を登録し忘れて作ってしまった

vast.ai のインスタンスには 2 種類あります。Docker インスタンス(= Docker コンテナとして動く既定の形。本書で扱うのはこちら)と、VM インスタンス(= 仮想マシンとして動く形。作成時に指定した場合だけ)です。Docker インスタンスなら救えます。稼働中のインスタンスに鍵を後付けするコマンドがあります。

vastai attach ssh <INSTANCE_ID> ~/.ssh/id_ed25519.pub

公式の例では、公開鍵の文字列を直接渡す形・$(cat ~/.ssh/id_rsa.pub) の形・ファイルパスを渡す形の 3 通りすべてが載っています。コンソールのインスタンスカードの SSH 鍵ボタンからも同じことができます。ただし VM インスタンスは鍵の変更に作り直しが必要です(API リファレンスの注記では「VM: no recovery」)。

ここでドキュメントの矛盾に触れておきます。ガイド側は「アカウントに追加した鍵が効くのは新規インスタンスだけ」と警告する一方、API リファレンスの一部は「すべての現行インスタンスに自動追加される」と書いており、真っ向から食い違っています。どちらが実態かは公式ドキュメントからは判定できません。厳しい側(作成前に登録しておく)を前提に動けば、どちらが正しくても困りません。

そもそも状態が違う

インスタンスカードのメインボタンの表示が、そのまま状態を表しています。

そして終端状態を覚えてください。actual_status が exited(コンテナがクラッシュ)・unknown(ホストからのハートビートが来ていない)・offline(ホスト切断)のどれかになったら、そのインスタンスは二度と running に戻りません。待っても直りません。しかもその間ディスク課金は続きます。公式が案内している対処は 1 つで、destroy して別の offer で作り直すことです。

最後に、SSH が使えないときの 2 つの逃げ道です。

vastai logs <INSTANCE_ID> --tail 50
vastai execute <INSTANCE_ID> 'ls -l'

vastai logs は起動時の出力を見るためのものです(既定は末尾 1000 行、--tail で行数指定)。インスタンス起動直後はログが出るまで少し待つ必要があり、待ちのメッセージが出たら少し置いて再試行します(REST API の仕様では、ログはいったん S3 にアップロードされ、その URL 経由で取り出される二段構えになっています)。vastai execute は停止中・アクセスできないインスタンスのファイルシステムを覗くための逃げ道で、使えるコマンドは ls / rm / du の 3 つだけです。bash コマンドはシングルクォートで囲み、結果の取得に数秒かかることがあります。公式が載せている例は 'ls -l -o -r' / 'rm -r home/delete_this.txt' / 'du -d2 -h' の 3 つで、いずれもパスの先頭にスラッシュを付けていません。任意のコマンドを流したいなら、execute ではなく SSH を使います。

つまずきポイント

鍵はあとで登録すればいいと思っていた

公開鍵はインスタンスを作る前にアカウントへ登録しておく必要があります。公式は「コンテナ作成の時点で適用される」と書いており、あとから登録した鍵は既存のインスタンスには入りません。Docker インスタンスなら vastai attach ssh で救えますが、VM インスタンスは作り直しになります。借りる前の 1 分を惜しまないでください。

scp を小文字の -p で書いていた

ポート指定は scp と sftp が大文字 -P、ssh だけが小文字 -p です。公式が Note で明示的に警告しているほど間違えます。転送が始まらない・別のホストに繋ごうとする、といった一見無関係な症状で出ます。

邪魔だから tmux を切った

touch ~/.no_auto_tmux で無効化できますが、公式が推奨していません。tmux は「SSH が切れても中の処理を生かす」ための保険です。切った状態で 30 分のモデルダウンロードを始めると、Wi-Fi が一瞬切れただけで最初からやり直しになり、その分の GPU 課金も無駄になります。画面を増やしたいだけなら Ctrl+b → c で足ります。

繋がらないので running になるまで待っていた

exited / unknown / offline は終端状態で、そこから running に戻ることはありません。待っている間もディスク課金は動き続けます。スクリプトでポーリングするなら必ずタイムアウトを入れてください。公式も「タイムアウトを入れないと無限ループし、その間ディスク課金が発生し続ける」と警告しています。

理解度チェック

Q1. SSH で繋いだらパスワードを聞かれました。何を入力すればいいですか?

入力するパスワードは存在しません。vast.ai のインスタンスは鍵認証のみで、パスワード認証は無効化されています。聞かれた時点で鍵が効いていないので、公開鍵が全文(先頭の ssh-ed25519 などから末尾のコメントまで)登録されているかを確認します。

Q2. direct 接続は proxy 接続より何ミリ秒速いですか?

公式ドキュメントに数値はありません。あるのは「slower for data transfer」「faster and more reliable」「lower latency than proxy SSH」という定性的な記述だけです。direct を使うには借りる前に direct_port_count>=1 で絞り、作成時に --ssh --direct を付ける必要があります。

Q3. インスタンス内で 8080 番で動いているサーバを、ポートを公開せずに手元のブラウザから見るには?

ssh -p <PORT> root@<HOST> -L 8080:localhost:8080 で繋ぎ、手元のブラウザで http://localhost:8080 を開きます。通信はすべて SSH 接続の中を通るため、インスタンス側のポートは 1 つも公開されません。公式も「公開インターフェースにポートを開けることの安全な代替」と位置づけています。

Q4. ssh のポート指定は -p です。scp では?

大文字の -P です(sftp も大文字)。加えて、proxy 接続経由の scp は遅いので公式は 1 GB 未満の転送に留めるよう勧めています。大きいものは direct SSH か、インスタンス内から wget / curl で直接落とします。

Q5. 接続できないまま actual_status が exited になりました。待てば running になりますか?

なりません。exited / unknown / offline は終端状態で、running には二度と到達しません。その間もディスク課金は続くので、destroy して別の offer で作り直します。

まとめ

次章では、同じインスタンスをブラウザから使う道具(Jupyter・Instance Portal)と、-p でポートを外に開けたときに何が起きるかを見ます。この章で ssh -L を覚えた人は、そのほとんどを「開けずに済ませる」判断ができるようになります。